「人と一緒に演奏する」ことの意味

多くの楽器が人と一緒に演奏することが当たり前、それによってやっと曲が成立するのに対し、ピアノは一人で演奏することが圧倒的に多い楽器です。(一人で曲を成立させることが出来るのが利点でもあるのですが…)

私も長年、ほとんど一人で弾くことばかりでした。
約10年前から「アンサンブル(少人数の合奏)をやるように。決まった相手と常に練習、演奏会をしなさい」という課題(アドバイスというべきかな…)を師匠から課されています。違う形態での演奏も体験しなさいということかと思っていたのですが、そのうち、これは音楽にとって非常に大切な要素を含んでいることに気づきました。

師匠がずっと言い続けていることのひとつに「いい演奏は弾く前(実際に音が出る前)に音が聞こえてくる」というのがあります。最初は意味がよく分かりませんでした。
弾く前に自分の中で音を聴く(イメージする)という事が十分出来ていれば人にもそれが伝わる、というような意味だと分かるまでかなり時間が掛かりました。意味が分かってもそれが実行できるにはもっと時間が掛かりました。
そして「アンサンブルではこの事が必要になってくる、だからアンサンブルをしなさい」という事だと理解できた時、音楽に対する感覚が少し変わった気がします。

アンサンブルは指揮者のいない合奏ですから、相手がしようとしていること(テンポ、音楽の雰囲気や流れなど)を読み取る必要があります。そして自分がしたいこと、しようとしていることを相手に伝えないといけません。「こうしましょう」と言葉で約束するのではなく、音で伝える必要性です。つまり「弾く前に音が聞こえてくる」ことが出来ないといい演奏にはならない、というわけです。

さらに、ピアノソロに戻った時には「一人でアンサンブルをしている」という見方もできるのです。メロディー、ベース、伴奏(和音)、副旋律など、アンサンブルなら複数の人で合奏することを1人でやっているわけです。したがって、ソロ演奏もアンサンブルであると捉えるだけで演奏は大きく変わります。
楽譜に書いてあることをただ実行すれば曲になるわけではないのです。楽譜の読み方、感覚の使い方がとても重要なのです。

今になって思うのは、アンサンブルをイメージするなどして出来るだけ初歩の段階からこういう感覚を身に付けていくべきなのです。それによって音楽的な演奏が出来るようになるのですから。
これは私がレッスンで大切にしていることのひとつです。


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